血管の病気である下肢静脈瘤がなぜ起こるのかを知るためには、私たちの身体中を走っている動脈と静脈、そして血液の循環の仕組みについて理解する必要があります。

老廃物を回収する役割を果たす血液

血液は以下のような順番で身体の各部を流れ、全身に酸素や栄養を供給し、二酸化炭素などの老廃物を回収する役割を果たしています。

心臓から送り出された血液が心臓に戻ってくる流れ

  1. 心臓→動脈
    動脈を通じて全身へと、栄養や酸素を豊富に含んだ血液を送り出す
  2. 動脈→全身
    身体中の臓器や末端へ血液を送り込み、栄養や酸素を届ける
    同時に体中から、二酸化炭素や老廃物を回収する
  3. 全身→静脈
    二酸化炭素や老廃物を含む、いわば汚れた血液は静脈を通って心臓へと返っていく
  4. 静脈→肺
    血液から二酸化炭素などの老廃物が取り出されて空気中へ排出される
    同時に、新鮮な酸素が血液に供給される(呼吸)
  5. 肺→心臓
    肺で新鮮な状態になった血液が心臓へ流れ込み、心臓から再び全身へ送り出される

心臓から送り出された血液が心臓に戻ってくる流れ

動脈と静脈について

動脈では、心臓が血液を全身へ行き渡らせるためにとても勢いよく血液が流れています。
この流れの速さに耐えられるように、動脈はゴムホースのような弾力と強度を持っており、心臓の鼓動に応じて脈を打ちます。
私たちが脈拍を数えるために触れるのは動脈の部分です。

動脈に対して、血液が全身へ行き渡ったあとの帰り道になる血管が静脈です。
血液の流れる速さが動脈ほどないため、静脈の壁はうすく弾力もありません。
身体の各部から、静脈を通じて血液が心臓へ戻るのですが、心臓より低い位置、特に下肢の静脈を流れる血液は、重力に逆らって心臓まで返っていかねばなりません。
もし、この静脈になんの仕組みもなければ、血液は重力に引っ張られて下方へと向かい、下肢にどんどんたまってしまいます。
そうならないよう、静脈にはいくつかの仕組みがあります。
それが、次で説明する「逆流防止弁」や「筋ポンプ作用」などになります。
これらの仕組みによって、血液は心臓まで返っていくことができるのですが、この仕組みが正常に働かない状態になってしまうと、酸素や栄養分の少ない血液、言わば汚い血液が心臓までしっかり戻らず、足の血管にたまってむくみやだるさを引き起こしたり、コブになってしまったりします。

あるいは血行が悪くなって慢性的な酸素・栄養不足の状態で皮膚の新陳代謝が低下し、黒ずみや潰瘍の原因となります。
これが下肢静脈瘤なのです。

「逆流防止弁」と「筋ポンプ作用」について

静脈は、身体の中で低い位置にある足から心臓へと血液を戻す仕組みをいくつか持っています。

血液の逆流を防ぐ「逆流防止弁」

逆流防止弁

その一つが「逆流防止弁」。
静脈の内側に備わっている「ハの字」の形をしたうすい膜のことです。
この膜が、弁として機能し、血液が心臓へ向かうときだけ開き、血液が通過したあとはピタッと閉じることで、血液の逆流を防ぐ仕組みになっています。
この弁がさまざまな理由で壊れてしまうと、血液は重力に引かれるがまま下方へと向かう、つまり逆流してしまうのです。

足の血液を押し上げる「筋ポンプ作用」

筋ポンプ作用

血液の逆流を防ぐ二つ目の仕組みが、「筋ポンプ作用」。
私たちが歩いたり立ったり座ったりして足を動かすと、太ももやふくらはぎの筋肉は縮んだり、ゆるまったりします。
この動きが、足の静脈を圧迫したりゆるませたりすることでポンプのような役割を果たし、足の血液を押し上げる効果があるのです。
立ちっぱなしや座りっぱなしの仕事をしている人が下肢静脈瘤になりやすいのは、この筋ポンプ作用を働かせる回数が極端に減ってしまうことが一因です。

これら二つが、足の静脈を流れる血液の逆流を防ぐ主な仕組みですが、人間の呼吸そのものにも血液が心臓へ返っていくのを助ける働きがあります。
息を吸うと胸郭(きょうかく)が広がり、胸部=心臓周辺の圧力が下がります。
すると、心臓周辺へ血液が戻っていきやすくなるのです。

逆流防止弁が壊れてしまうさまざまな理由

静脈を流れる血液の逆流を防ぐ大切な逆流防止弁ですが、ある理由でその機能が低下したり壊れてしまったりします。
主な理由をご説明します。

加齢で軟部組織がやわらかくなる

一番大きな理由は、加齢による身体の軟部組織(コラーゲンや弾性繊維など)がやわらかくなってしまうことです。
年齢を重ねるほど身体の変化に比例して、逆流防止弁もやわらかくなり、正常に機能しなくなります。
機能しなくなった弁は吸収され、数が減ってしまったりもします。

妊娠で静脈がやわらかくなる

妊娠

妊娠をした女性は、ホルモンの影響で静脈がやわらかくなります。
腹圧(ふくあつ)が上昇することで血管内の圧力も上がって弁にかかる負担が増します。
これらの理由から妊娠・出産を経験した女性は、逆流防止弁が壊れやすくなるのです。
このように逆流防止弁の減少・劣化は加齢や妊娠・出産によって進行します。
ですので、どんなに予防しようと思っても完全に避けられるものではありません。
そして、いったん発症してしまえば、残念ながら自然に治ることはなく、徐々に悪化してしまいます。

ちなみに・・・

ちなみに、コレステロール値が高いなどのいわゆる血液がドロドロの場合、下肢静脈瘤になりやすいのではないかと心配する方がいらっしゃいます。
実は血液そのものの状態は関係がありません。
ドロドロでも弁が機能していれば逆流は起こりません。
逆にいくら血液がサラサラでも、逆流防止弁がなければ下肢静脈瘤の危険があります。

筋ポンプ作用がなぜ弱まるのか

復習を兼ねますが、筋ポンプ作用が弱まってしまう原因について見ておきましょう。
さまざまな原因により筋力は弱くなったり、筋肉量が減少することで、足の筋肉が生み出す筋ポンプ作用は弱まることになります。

加齢による筋肉量の低下

中高年

筋力が弱まる主な原因は、逆流防止弁が失われる理由と同じく、加齢です。
歳を重ねることで体が衰えて運動量が減ります。
筋肉も次第に減っていき、筋ポンプ作用は弱体化していきます。
また、女性というだけでも筋ポンプ作用には不利です。
女性は一般的に男性よりも筋力が弱いため、筋ポンプ作用も男性より弱いことが多いです。

運動不足や肥満

肥満

筋力や筋肉量が重要だということは、運動不足や肥満の状態になれば、筋ポンプ作用の働きも弱まることになります。

立ち仕事やデスクワーク

デスクワーク

立ち仕事やデスクワークの人によく発症する下肢静脈瘤ですが、何度か述べたとおり、立ちっぱなし・座りっぱなしの状態では筋ポンプ作用そのものを働かせる回数が減っているのが理由です。

日常的に運動をする、仕事の合間に足首を動かしたり、つま先立ちをすることで、筋ポンプ作用を促進できます。